今の状態から過去を推測してあげる

『ゆめ』は保護された犬です。人にはとてもなついているので、以前は飼育されていたことがあると思われます。家の中ではほとんど問題ないそうなのですが、散歩中やドッグランでほかの犬に吠えかかってしまうことがある、という相談を受けました。

会いに行ってみると、ゆめは本当に人なつこい女の子でした。愛きょうたっぷりに近づいてきて、なでてほしいと要求します。慣れるのも早く、私の手に甘噛みをしてきました。

わが家のトイプードルの『トラ』も甘噛みしますが、慣れてない人にはやりません。なので、トラに甘噛みされる人がいたら「良かったね、トラに認めてもらえたみたいよ」と言っているほどです。もちろん力の加減はできているので、痛くないはずです。慣れていない人はびっくりするかもしれませんが、甘噛みされるのが嫌な人は、彼の大好きな遊びを否定することになりますので、アトラスと仲良くなれないかもしれません(笑)。

さて、私はゆめに甘噛みされ、そんなに早く受け入れてもらえたと実感してうれしかったのですが、飼い主さんは驚いたたようです。ご安心ください、ゆめのせ噛みは加減もできているし、きっと仲良しのサインなのだと思います。前の飼い主さんがやらせていたのかもしれませんね。

犬は笑う、笑わない、と諸説ありますが、甘噛みしているときのゆめの顔は、本当にうれしそうに目を細めていて、まるで笑っているように見えます。今では、お宅に伺ってリビングルームに通されるや否や、ゆめが私の腕をくわえてハムハムした後に寝そべるので、私がお腹のあたりを軽くマッサージしてやる、というのがお決まりのあいさつになりました。

そんな様子を見ていると、外でほかの犬に吠えかかる姿が想像できませんでしたが、レッスンで散歩に出た初日にそれを確認することができました。

今回の相談は吠えの問題でしたが、それ以前にまず、散歩でゆめに引っ張られてしまっている飼い主さんが気になりました。ゆめが行きたいほうへ、行きたい速度で連れて行かれてしまっている感じだったのです。それでは、吠えかかってしまったときにとても止められないので、ジェントルリーダーを使うことにしました。これなら、首輪で引く1/3くらいの力でゆめをコントロ-ルできます。歩く位置も、右へ行ったり左へ行ったりしてとても危険だったので、飼い主さんの希望で左側に決めました。

「ゆめの歩きたいように歩く→ゆめに決定権がある→飼い主の指示に従いにくくなる→吠えるのを止められない」という現状なので、歩く速度や方向、臭いを嗅いではいけない、嗅いでOKなど、すべての決定を飼い主さんができるようにトレーニングを始めました。

まずは、飼い主さんの左側(理想の位置)にゆめが来るようにリードを短く持ち、腕は体につけるようにします。腕は前後左右に勳かないように注意。歩く速度はゆっくりで、たまに止まってお尻を手で押して座らせます。このとき言葉での指示でなく手で押すのは、飼い主さんの「意思の強さ」を手からゆめの体へ肉体的に伝えるためです。途中まで押して、その後は自分でお尻を下ろすのを待ちます。そのとき、飼い主さんには心でこうつぶやくようにしてもらいました。「どうすればいいんだっけ?」

最初、ゆめはやはり抵抗しました。この抵抗はゆめの気持ちの表れで、反発でもあるので認めるわけにはいきません。「ゆっくり歩いて止まり、座らせる」という作業を繰り返しやってもらいました。しばらくすると、そばを黒いトイプードルが通りかかりました。

「ガウッ!」。ゆめは、家で見る姿からは想像もつかないような激しい様子で、その犬に飛びかかりそうになったのです。その子は、大好きな『リョウ』くんという友達犬でした。少々暗くなり始めていたので、リョウくんだと認識するのが遅れたのでしょうか?そのときの様子から、散歩中はゆめがとても緊張している状態であることがわかりました。友達でさえも警戒してしまったようです。

「いつもあんな風になってしまうんです。前の犬はこんなことはなかったんですが……」と飼い主さん。以前は『ルギー』というトイプードルを飼っていたそうなのですが、ゆめと性格は正反対。ルギーは、どんな犬とも仲良くできたそうですが、ゆめは、相性が合わない犬には吠えてしまうのです。

でも、ゆめはルギーとは違います。しかも保護された犬なので、過去の犬生に何があったのか正確にはわかりません。ほかの犬とトラブルを起こしてしまって、飼育を放棄された可能性もあります。もしかしたら、ほかの犬に噛まれた経験もあるのかも……。過去がわからないからこそ、私たちは「今」見られる行動から、過去に何があったのかを理解してやらなくてはならないのです。